講演・研修会

「治す医療から、支える医療へ」――大阪市北区医師会で在宅看取りと人生会議(ACP)について講演しました

講演が終わったあと、会場を出るまでの時間が好きです。参加者の方々と短い時間でも直接言葉を交わし、名刺をいただき、帰路につきます。車を運転しながら、頭の中では、自分が話したことが反芻されます。

「あの言い方で、伝わったか」「あの事例を出してよかったか」と、いつも少し不安が残ります。

先日、大阪市北区医師会様のご招待で、在宅医療・看取り・人生会議(ACP)をテーマに講演させていただきました。医師・看護師・介護職など多職種の方々、オンラインを合わせ約30名が参加してくださいました。

「なぜ、7割が病院で亡くなるのか」

私は、こんな問いを投げかけました。

「最期はどこで過ごしたいか」という厚生労働省のアンケートでは、6割の方が自宅を希望しています。それなのに、実際には7割の方が病院で亡くなっています。

この数字のギャップを、私はずっと気にしてきました。

「病院が嫌なわけじゃない。ただ、できれば家がいい。」
「家族に迷惑をかけたくないから、病院にいればいいと思っている。」

在宅医として10年以上、患者さんやご家族と向き合ってきました。その経験から言えば、「病院希望」という言葉の裏に、本当は違う気持ちが隠れていることは、少なくありません。

その本音を引き出せるかどうかは、聴く側の姿勢にかかっています。

ACP(人生会議)は「最期の話」ではありません

ACPというと「延命治療を望むか、望まないかを決めるもの」というイメージを持たれがちです。でも私は、ACPの本質は別にあると思っています。

「今、一番困っていることは何ですか」
「今、どんなふうに過ごしたいですか」

そんな目の前の問いかけから始まる、小さな対話の積み重ねだと思っています。

いきなり「最期はどうしたいか」と聞かれても、人はなかなか答えられません。ただし「今、何が嫌ですか」なら、言葉が出てくることがあります。そこから始まる会話が、いざというときの選択を裏付けてくれます。

医療の現場はたしかに忙しいものです。でもこの傾聴時間を省くと、患者さんが心の底で願っている本当の希望は、永遠に誰にも届かないままで、終わりを迎えることになるのです。

「治す医療」から「支える医療」へ

今回の講演タイトルは、「穏やかなエンディングを支える力〜在宅看取りに関わるすべての人が輝くチームケア〜」としました。

医療の歴史は治療の歴史。つまり「病気を治すこと」を中心に発展してきました。それ自体は正しいものであり、これからも必要な事柄です。ただ、人生の最終段階になると「治す」意志だけでは支えられない事実があります。

どこで過ごしたいのか。
誰と過ごしたいのか。
何を食べたいのか。
何を見て、何を聞きながら、息を引き取りたいのか。

そういう問いに向き合うとき、医療の役割は少し変わります。「治す」から「支える」へ。それは治療をあきらめることではありません。その人が生ききる時間に、寄り添うことです。

在宅医療は、そうしたさいごの時間を充実させるために存在していると、私は思っています。

参加いただいた先生方の感想が励みに

講演後、にしひら内科クリニックの西平綾子先生からこんな感想をいただきました。

「治す医療から支える医療へ」「治療をあきらめるのではなく、生きる時間を支えるケア」という言葉がとても印象に残りました。患者さんが一番困っていること、望んでいることを聞くことをきっかけにACPを進めていくという視点を、明日からの診療に活かしていきたいと思います。

「明日からの診療に活かす」という決意に、私は励まされました。講演はあくまで言葉でしかありません。でも、それが誰かの「明日」に少しでもつながるなら、話し続ける意味があります。

また、大阪市北区医師会の米田円先生からは、こんなお言葉もいただきました。

川邉正和先生、川邉綾香さんの息の合った講演から、在宅医療に対する揺るぎない信念と熱意が強く伝わってきました。東大阪プロジェクトのYouTubeも拝見し、医療の枠を越えて地域へ働きかけている活動の広がりに驚きました。自分の知らないところで、在宅医療に大きく貢献している医師が多くいることを知り、もっと学び続けたいという気持ちになりました。

「揺るぎない信念」と言っていただきましたが、正直なところ、私は今でも迷いながらやっています。正解がないからこそ、毎回、目の前の患者さんと向き合い直します。その繰り返しの中で少しずつ積み重なってきたものが、「信念」に見えるのかもしれません。

これから私自身も学び続ける必要があると思っています。

地域で支えること

在宅看取りは、単独のクリニックだけで成り立つものではありません。

訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、介護職、薬剤師、そして地域の人たち。多くの人がつながることで、はじめて「その人らしく生ききる時間」が支えられます。

東大阪プロジェクトは、そのつながりを地域の中に育てていくための活動です。医療と介護だけでなく、弁護士も、葬儀社も、聖職者も、一緒になって「終わりから逆算した暮らし」を考える場をつくってきました。

まだまだ道の途中ですが、今回のような場で仲間が増えるたびに、「続けてよかった」と思います。

今回このような機会をいただきました大阪市北区医師会の皆さまに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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