「人生会議(ACP)」という言葉、医療や介護の現場を中心に知名度は少しずつ高まってきたように思います。
講演会で「知っている人はいますか?」と挙手していただくと、以前よりも多くの手が挙がります。とくに医療・介護従事者を対象とした機会では、半分以上を大きく越えるようにもなっています。
しかし今、次なる壁を感じているのが本音です。
「知っている人」は確かに増えた。でも「やったことがある」そして「実行できる」との間には、かなり厚くて高い壁があると認めざるをえません。
講演の回数を重ねるほどに、私たちはその問いと向き合ってきました。どうすれば、現場で実践が生まれるのでしょうか。今回は、高くそびえる壁の乗り越え方について、考えてみます。
岸和田の方々に感謝!アンケートで「その先」を知った
今回、岸和田市の皆さまから、とても貴重な機会をいただきました。
私たちの講演後に、岸和田市役所の担当者の方々が自主的にアンケートと追跡調査を実施してくださり、その結果を私たちに共有していただいたのです。

私たちが知る限り、これまで講演後の「実際の行動」まで追跡された例はありません。だからこそ今回、私たち自身も初めて、「この講演は本当に現場で役立っているのか?」という問いへの答えを、データとして知ることができました。
講演で大切にしていること
私たちの講演は、いきなり「最期の話」に迫るのではなく、こんな問いかけから始めることが定番です。
「最後の晩餐、何を食べたいですか?」
「誰と、どんな時間を過ごしたいですか?」
参加者の方々に考える時間をつくることで、前向きに参加していただきたいというねらいは確かにあります。ただそれ以上に、自然に話せるモードになってほしいという願いが込められています。単なるアイスブレイクではないんです。
人は「死」そのものは語りにくくても、「自分が大切にしていること」なら自然に話しやすいからです。どこで死を迎えたいかと突然問われたら固まってしまう人もいるかもしれません。でも、あなたがお腹いっぱい食べたいものは?と聞かれれば答えられます。それが仮に人生さいごの食事だとしても、同じ答え?という質問なら違和感が少ないはず。
▼以下で、講演に使用した資料の一部を確認またダウンロードいただけます。
そこから少しずつ、どう生きたいか、どう最期を迎えたいかへとつながっていきます。
繰り返しお伝えしているのは「人生会議は特別なものではない」「日常会話の中でいい」ということです。食事中の何気ない会話、テレビやドラマのワンシーン、「もし○○だったら?」という雑談。そうした積み重ねが、いざというときの意思決定を支えてくれます。
追跡調査の結果は…想像以上
アンケートで報告された数字は、私たちの想像を超えるものでした。
講演後、参加者の63%が実際に誰かと人生会議を行っていました。
研修後の行動変容は、10〜20%でも高いとされますが、それを大きく上回る数字だったのです。
さらに具体的な声も、興味深い内容でした。
「日常会話の延長で話せた」「『最後の晩餐』がきっかけになった」という声が多く寄せられました。
つまり講演の中で、ご自身が体験したことを、そのまま現場に持ち込んでくださったということです。また「利用者・家族と話せた」だけでなく「自分の家族とも話せた」という声が多いのも予想以上でした。
それだけ支援者の立場を離れて、自身の「自分ごと化」が起きていることの証だと言えます。
そして何より大切なのが、話し合った方の100%が「話してよかった」と回答してくださったことです。「本人の意向がわかった」「家族と話すきっかけになった」「自然に話せた」そんな声とともに、よかったと言ってもらえたことは、私たちにも大きな自信と勇気を与えてくれました。
だからこそ、きっかけ作りを続けよう
少なくとも私たちにとっては史上初となる「講演後の行動変容調査」から見えてきたのは、とてもシンプルなことです。
人は「できない」のではなく、「きっかけがない」だけなんですね。
私たちの講演は、その「きっかけ」をつくることが大事な役割なのだと、あらためて実感しました。
それでも残る課題
もちろん全員がそうなったわけではありません。一方で、現場のリアルな声も見えてきました。
「どう切り出せばいいかわからない」
「医療との連携が難しい」
「記録に残せない」
実行したい気持ちはあるけれど、もう一歩何かが足りない。仕組みか、理解者か、前例なのか。ここに、これからの地域づくりのヒントがあるように感じています。
同じ空間で共有する時間の力
最近、もう一つ感じていることがあります。

オンラインでは得られない、同じ空間で共有する時間の力です。表情や沈黙、うなずき、その空間にある独特の空気感。そのすべてが、「話してもいいんだ」「話せるかも」という安心を生み出します。
みんながちょっと勇気をもって、これまでの自らの殻を破る体験が、人生会議には必要だとも感じています。
私たちが目指していることは穏やかなエンディング
東大阪プロジェクトでは、こんなクレドを掲げています。
「出会うことで人が動き出し、ともに未来を変える。穏やかなエンディングをみんなで。」
人生会議は、医療だけの話ではありません。人生そのものであり、残った日々の生活の話です。大切な人に、自分の思いを伝えること。その積み重ねが、その人らしい人生と、穏やかな最期を支えるのは間違いないと思います。
今回、岸和田市の皆さまが追跡調査を行ってくださったことで、この講演が「行動を生む講演」であることを初めて客観的に確認することができました。心より感謝申し上げます。だからこそ、私たちは毎回の講演をこれまで以上に大切に、行動につながるように心を込めていきたいと思います。
もし、人生会議を地域に広げたい、現場で実践につながる研修をしたい、多職種・住民を巻き込んだ場をつくりたい、そうした想いがあれば、ぜひお声がけください。必要とあれば、現地へ伺います。
この講演が、誰かの「最初の一歩」になりますように。そしてその一歩が、地域の未来をやさしく変えていくことを願っています。
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