まちカフェ

「かわいそうだ」と決めていたのは、誰だったのか?【第33回まちカフェ開催報告】

こんにちは。いんちょです。2026年9月5日(土)、デイサービスゆめふる長田にて、第33回まちカフェ@東大阪プロジェクトを開催しました。

今回の話題提供者は、株式会社福祉のヨアケ 代表取締役で社会福祉士の脇坂武志さん。「どんな人にも必ず『出番』がある! 〜車椅子の娘が教えてくれた、可能性に火をつける生き方〜」をテーマにお話しいただきました。

講演の冒頭、脇坂さんが会場に投げかけたのは、とてもシンプルな問いでした。

「あなたにとって、幸せって何ですか?」

健康であること。家族と過ごすこと。好きなことができること。答えは、一人ひとり違って当然だと思います。この問いに対する。あなたなりの答えを思い浮かべながら、この後をぜひ読んでください。

欠けた円の、欠けたところばかりを見ていた

脇坂さんの娘さんは、1歳のときに小児がんである神経芽腫を発症しました。「頭が真っ白になった」と当時を振り返られます。治療によって病気そのものは改善しましたが、腫瘍による神経への影響で下肢に麻痺が残りました。

講演の中で、印象的な一枚のスライドがありました。2つの円が並んでいて、左側はよくあるきれいな円で、もうひとつの右側の円は、ほんの一部が欠けています。

私たちは欠けた円を見ると、必ず欠けたところに目がいきます。脇坂さんも、長いあいだ娘さんに対してそうだったと話されました。歩けない、立てない。その欠けているところを何とかしようと、そこばかりを見ていたそうです。

それでも「娘にはいろいろな経験をしてほしい」という思いから、車椅子でスケートに挑戦したり、仲間の力を借りて山へ出かけたり。無理だろうと最初から決めるのではなく、どうすればできるのかを一緒に考える。その積み重ねの先で気づかれたそうです。できないことはある。でも、できることも、こんなにたくさんある。

医学的には立つことが難しいと言われていた娘さん。しかし本人は「立ちます!」と宣言し、自分なりに身体を使いながら、本当に立つ姿を見せてくれたのです。できないと決めていたのは、周囲のほうだったのかもしれません。

「また後でね」と言った、その2時間後

もうひとつ、脇坂さんが娘さんから教わったこととして挙げられたのが「今できることは、今する」でした。

仕事から疲れて帰宅したある日。娘さんから「抱っこして」と言われたものの、脇坂さんは「また後でね」と答えました。そのわずか2時間後、娘さんの体調が急変して入院。医師からは命に関わる可能性もあると説明されました。

幸い一命は取り留めましたが、脇坂さんは、そのとき強く思いました。もしあのまま会えなくなっていたら、「また後でね」と言ったことを一生後悔していたと。

私も在宅医として、これと同じような場面に何度も遭遇してきました。「落ち着いたら」「元気になったら」と先送りにされているうちに、その日が来なくなってしまうことがあります。私たちは「今のうちに」とお伝えするのですが、これは脅しなどではありません。明日でいいと思っていた、その明日が来ないかもしれないからです。

やりたいこと、伝えたいこと、誰かと過ごしたい時間は、「いつか」ではなく「今」でなくてはいけないかもしれない。脇坂さんの体験は、私たちが日々患者さんやそのご家族にお伝えしていることと、重なっていました。

かわいそうだと決めていたのは、誰だったのか

脇坂さんは最近、娘さんに謝ったことがあると話されました。

それまで心のどこかで「歩けなくてかわいそう」「できないことがたくさんあってかわいそう」と思っていたそうです。けれど成長した娘さんは、とても楽しそうに暮らしています。できないことがあれば自分なりに工夫し、誰かの誕生日には自分にできる方法で一生懸命お祝いします。その姿を見ながら「この子は、幸せを知っている」と感じたのだそうです。

一方で、彼女をかわいそうだと決めつけていたのは自分だったのかもしれない。

ここが、私には一番こたえました。在宅医療の現場でも、「もう食べられないだろう」「もう外出は難しいだろう」と、先に線を引いてしまう場面は少なからずあります。それでも、その人の幸せは、その人のものです。私たちの役割は、幸せを決めることではなく、その人が何を大切にしているのかに耳を傾けることだと、改めて思いました。

そして今回最も心に残った、この言葉。

「ただ、そこにいることも出番なんじゃないか」

出番と聞くと、誰かの役に立つこと、舞台の中央に出て踊ったり歌ったりすることを想像します。けれど、誰かを応援すること、話を聴くこと、笑顔でいること。もしくは、ただそこに存在していること。それだけで誰かの心が動くことがあります。

脇坂さんにとっては、娘さんの存在そのものによって、脇坂さんの生き方も考え方も変わりました。新しいつながりと活動が生まれたのも、存在があったからです。何か特別なことをするから価値が生まれるわけではありません。

冒頭で、あなたにとっての幸せが何かを思い浮かべてほしいとお話ししました。自分にとって何が幸せなのかが見えてくると、「自分はここで何ができるだろう」も見えてきます。出番を見つけて誰かと関わることが幸せにつながっていくこともあります。「幸せ」と「出番」は、深くつながっているのだと感じた講演でした。

参加者の皆さまの感想

講演後のアンケートから、いくつかご紹介させていただきます。

<感想>
・目線を変えることで、新しい発見がある
・できないことではなく、できることを見る
・自分のできることについて考える機会になった
・今という時間は、その時しかない
・自分の強みを確認して、自信を持ちたい
・一緒に働く仲間の良いところや強みを、本人に伝えていきたい
・「今」を悔いなく、楽しく過ごしたい

講演を「良い話だった」で終わらせず、自分は明日からどうするのかまで考えてくださった方が多かったことが、うれしく感じました。

顔の見える関係の、その先へ

後半は、まちカフェ恒例の交流の時間です。医療・介護・福祉をはじめ、さまざまな立場の方がテーブルを囲みました。

<アンケート結果>
・多くの方と知り合えた
・医療関係者以外の方とも話すことができた
・会いたかった人に会えた
・オンラインでは知っていた方と、リアルで名刺交換できた
・人となりや雰囲気は、リアルで会うのが一番

今回も、東大阪・横沼のCalmspaceさんにご協力いただき、バターチキンカレーをご用意いただきました。「クセになる美味しさ」と好評でした。講演のあとにコーヒーとカレーを囲むと少し肩の力が抜けて、名刺交換だけでは終わらない会話が生まれます。Calmspaceさん、今回もありがとうございました。

まちカフェで目指しているのは、顔と名前を知っている関係のさらに先です。その人が何を大切にしているのか、どんなことが得意なのか、どんな人なのか。そこまで少しずつ知って、「この人なら、あの方に紹介したい」「困ったときはこの人に相談したい」と思える関係になること。今回も新しいご縁がたくさん生まれました。

最後に、東大阪プロジェクトのクレドを皆さんと共有しました。

出会うことで人が動き出し、ともに未来を変える

脇坂さんと出会ったこと。自分自身の幸せと出番を考えたこと。その場で誰かと話したこと。その一つひとつが、いつか次の一歩につながります。大きなことを始めなくてかまいません。今日出会った誰かに連絡してみる。誰かのできることを伝えてみる。やりたかったことを「今」やってみる。

脇坂武志さん、そしてご参加いただいた皆さま。温かい時間を、本当にありがとうございました。

たいせつなご案内

東大阪プロジェクトでは、来年も「さいごの授業」を開催します。

【さいごの授業 THE LAST LECTURE 2027】
テーマ:あなたは「さいご」に何を伝えますか?
日時:2027年3月7日(日)13:00〜18:00
会場:大阪樟蔭女子大学
参加費:無料
対象:医療・介護・福祉・教育にかかわる皆さまをはじめ、どなたでも
登壇:川口 俊 先生(かわぐち呼吸器内科クリニック 院長/日本呼吸器学会認定専門医・指導医)
   大坂 巌 先生(医療法人社団真養会 きせがわ病院 副院長/日本緩和医療学会 緩和医療専門医・指導医)

▶お申し込みはこちら

さいごを考えることは、今をどう生きるのかを考えることです。今回のまちカフェで脇坂さんが伝えてくださった「今できることは、今する」というメッセージとも、どこかでつながっています。

2027年3月7日、「さいごの授業」でお会いしましょう。

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